1/3ページ目 外にはちらほら小雪の舞う深夜。 土方は大鳥と共に軍儀を重ねていた。 その最中、控え目なノックが響く。 「入れ。」 土方が静かに返事を返すと、失礼しますと可愛らしい声と共に千鶴が入室する。 その手には盆が捧げられ、二つの茶器が乗っている。 「お茶をお持ちしました。」 「ありがとう、いつもごめんね、千鶴ちゃん。」 大鳥の声に知らず土方の眉がピクリと撥ねる。 「・・・大鳥さん、あんたいつからこいつを名で呼ぶようになったんだ?」 「いつって、まだ最近だよ。だって折角仲良くなれたのに、いつまでも苗字で呼び合うのも他人行儀じゃないか。 千鶴ちゃんにも圭介さんって呼んでもらってるんだ。」 ニコニコと嬉しそうな大鳥に対し、土方の機嫌は見る見る間に下降していく。 「あの、土方さん。お茶どうぞ。」 いつもなら軽く礼を述べて茶を啜る土方だが、今日ばかりは無言で茶椀を引っ掴むとズズズッと音を立てて飲み干し盆の上にゴンッと返した。 「千鶴ちゃん、僕等はもう少し掛かるから、先に寝ていていいよ?」 「いいえ、土方さんや圭介さんがお仕事で起きてらっしゃるのに、小姓の私が先に休む訳には行きません。 あちらの部屋に居ますので、何か御用があればお声を掛けて下さい。では、失礼します。」 機嫌の悪い土方の様子に気付いているのかいないのか。丁寧にお辞儀をして退室した千鶴に、大鳥が感嘆の声を洩らす。 「何だか益々可愛くなっちゃったねぇ、彼女。」 「あぁ?」 「そんな怖い顔しなくていいじゃないか。僕は君の小姓を褒めてるだけなのに。それにねぇ、君も名前で呼んで欲しいならそう言わなきゃ! そんな眉間に皺寄せてるだけじゃ伝わらないよ?」 「誰が名で呼んで欲しがってんだよ。」 「誰って、土方君。さっきからすっごい機嫌悪いのは、彼女が僕を名で呼んだからでしょう?」 「・・・。」 口では負けると思った土方は賢明にも無言を貫き書類へと目を落とす。 暗に軍儀を再開しようと言う動きだったのだが大鳥は気付いていながら尚も話題を変えない。 「だってねぇ?土方君、知ってた?彼女、凄く人気があるんだよ。 初めこそ君の恋人だと思って遠慮してた兵達も、いつまでも君を苗字で呼ぶ千鶴ちゃんと、 小姓としてしか接しない君達を見てこれならって頑張ってる子達が凄く増えてるんだ。 いや〜本当なら僕だってその中に加わりたいけれど、僕は君の気持ちも彼女の想いも知っちゃってるからね。 やっぱり無駄な事に精を出すべきじゃないと思う訳だ。」 「頑張ってるって・・・。何をどう頑張るんだ。」 「とりあえず、恋文は毎日数十通届いてるみたいだね。あの手この手でお誘いも多いみたいだし、贈り物もよく貰ってたかな。 けど、残念ながら彼女はそのどれもが本気だと気付いていない。 君の小姓である自分の機嫌を取れば土方君からの覚え目出度くなるからだって思ってるみたいだよ?」 「それならそれでいいじゃねぇか。”あれ”は俺の小姓だ。他の誰にもやるつもりはねぇ。」 「けど、その中の誰かが本気の本気で彼女を口説いたらどうする? いつまでも振り向いてくれない冷たい想い人より、目先の優しい男に目移りしちゃうかもよ?」 それでいいの? [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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