1/4ページ目 とても久し振りの光景だった。 少し伸びた髪を風に遊ばせながら、その人は中庭の池の縁に佇んでいた。 その視線は少し上を向いて、まだ七分咲きの桜を見ているようで、空を見ているようで、その実何も映していないようにも見えた。 「お風邪を引かれますよ。」 とっくに私の存在は気付いているだろうけれど、先に声を掛けてから薄布を肩へと掛けた。 「羅刹の身で、病など怖くはありませんよ。」 「でも、例え羅刹でも苦しいのは同じですから。」 そのまま少し後ろに立つ私に、振り返る事なく静かに布を返そうとする手を、やんわり押し留めてもう一度肩へと手を伸ばした。 「今年は桜が早いですね。」 何も映していないように見えた瞳は、どうやら例年より少し早い桜を見ているらしかった。 「なぜそうも咲き急ぐのでしょうね。早く花を咲かせたとて、それだけ早く散ってしまうと言うのに・・・。」 後悔、されているんだろうか? 自分が羅刹となった選択を、後悔などしないと誇らしげに告げたこの人が、今初めて後悔しているんだろうか? 「まるで死に急いでいるようですよ。」 ゆっくりとこちらを振り向いた山南さんは、私の予想に反して穏やかに微笑んでいた。 「そうではないと思います。」 「何故ですか?」 私は少しほっとしながら、同じく桜を見上げ一つ一つ言葉を選んでいく。 「咲き急いでいる訳でなく、誰より早く花開けた事を誇っているんですよ。 ゆっくり開く蕾も一足先に開く蕾も、願う事は同じだと思うんです。」 桜を見上げたまま、山南さんにというより、私自身がそう願いたいからそのまま言葉を続ける。 「より鮮やかにより美しく、より長く咲いていたい。 誰かの為じゃなく、自分の為に咲き続けたいと、そう願っているんじゃないでしょうか?」 「そう・・・でしょうか?」 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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